伊勢物語栄花枕 2巻
- 青本合1冊。題簽欠。題簽「風流(ふうりう)/邯鄲(かんたん)/浮世榮花枕(うきよゑいぐ(く)わまくら) 上(下)」のある東洋文庫岩崎文庫本と同内容。下冊題簽は当館蔵『青本外題張込集』1(請求記号:寄別5-4-3-7)にあり。辰年(安永元〔1772〕)、松村版。富川吟雪画。柱題「ゑいぐ(く)わ枕上(下)」。上冊表紙打付書に拠った当館本の題名「伊勢物語栄花枕」は1丁表の慳貪箱の書名「伊勢物語」と柱題の「ゑいぐわ枕」によったとみられ、『浮世榮花枕』とするのが良い。式亭三馬旧蔵。(解説)早くから着目され、『校註黄表紙代表作選第1期』(1932年、江戸文化研究会刊)に複製あり。(内容)謡曲「邯鄲」の廬生を女性に置き換えた作品。「邯鄲」の捩りとしては黄表紙の最初作として著名な『金々先生栄花夢』に先行するが、夢の内容は依然として古風。(上)浅草今戸辺の美女おせいは男選びして一人住み、ある夕暮れ書見しつつ机に依りまどろむ。主人の望みなので是非宮仕えをと茂町少納言の使者が訪れ立派な乗物に乗せて連れ行く。少納言は23、4の市川錦考のような美男で、おせいを見て喜び、すぐにお寝間の伽に召される。小姓玉垣花之介が御盃を勧める。御目見得も済み、豪華な御殿を腰元に案内されて御寝所へ。利発で歌学にも糸竹にも通じ、心遣いも細やかなので殿は昼夜お側を放さず四季の遊興を楽しむ。月日は重なり玉のような若君を平産。(下)天魔の魅入れか、おせいの方は腰元さつきに言い含め小姓花之介を口説く。花之介もついに道ならず深く契る。おせいの方は正嫡の藤若を追い失い我が子を家督にと工み、衣裳に蜜を塗って花園に出、群がる蜂を払おうと傍に寄る藤若を讒言し追籠める。千鳥の香炉を過って割った腰元さつきを局に打擲させる。さつきは口惜しく、2人の艶書を持って不義を訴える。殿は急いて、不義と極まれば両名を成敗せよと命ずる。不義も若君の讒訴も露見し、打首となるその時、浅草寺の入相の鐘が聞こえ今戸の小家で夢醒める。おせいは夢醒めて「一心転倒すれば獄卒笞を振る」という仏の教えと悟り、さる方へ縁付き、目出度く栄えた。(木村八重子)(2016.2)(2020.9最終更新)(紹介)暉峻康隆著『江戸文学辞典』(昭和15年、冨山房刊)に立項。『草双紙』(岩崎文庫貴重本叢刊〈近世篇〉第6巻、昭和49年、貴重本刊行会刊)に影印。『日本古典文学大辞典』(1983年、岩波書店刊)に立項(執筆・木村八重子)