浮世宿替女将門
- 青本、合1冊、鳥居清経画、鱗形屋刊。字題簽の題名上に牡丹の絵あり、『風/流/妖化役者附』巻末「丑正月新版目録」に「浮世宿替女将門 二冊」とあり、丑(明和6[1769])年刊。柱題「やとか(が)へ女」。他に青本2冊で題簽完備の東京国立博物館本、上冊題簽欠の大東急記念文庫本、題簽欠で上冊補写の天理図書館本がある。(内容)(上)下京七条通に春夏は女房おさくが扇を折り、秋冬は嘉兵衛が紙衣を揉んで暮らす夫婦があったが、女房は口が悪く家主の内儀の大きい鼻から諍いとなり、宿替えする仕儀となった。五条通では北隣の女房が乱心し刃物を抜いて駆け回り、六角堂前では逆柱で夜鳴り響き、千本通は静かだが西風に野墓の煙が来、新町の上は隣の麹屋から蝉程の虫が飛んできてむさくるしく、隠居が夜明けに大念仏して耳に触り、大仏脇は五月雨の湿気で夫婦で患い、松原通は鬼門の角で当年の金神に当たり2年内に7回引越し、遂に世帯を畳んで男(嘉兵衛)は島原へ奉公に、女(おさく)は小間物屋の賄いに住み込む。初めは気さく者と気に入られたが、馴れると例の悪口から失職する。嘉兵衛も島原をしくじり、売薬「木香丸」を思い付き、北野社、祇園芝原で女房に三味線弾かせ、人寄せに三番叟の綱渡りをし、四条川西の裏店に住む。嘉兵衛に愛想を尽かされ、おさくは相手恋しく、白粉を厚く塗っても誰にも相手にされず、自分を惣嫁に売るつもりの新兵衛を口説く。嘉兵衛は他国行きを思い付き、おさくも新兵衛に欺され西国へ。別れる際に「去り状」を求め、その後は知れない。(下)嘉兵衛は鏡の宿の旅籠屋鯉屋に勤める。旅人への挨拶も良く主人の気に入り、小銭も身に付ける。旅籠屋の出女は昼過ぎから見世先へ出て厚化粧の笑顔で客を引く。5人連れの旅人が晩に出女を頼む。この宿に遊女はないが嘉兵衛は承知して寝間の火を吹き消し、尼5人を一夜300文に値切って客へ出す。その内一人が女の頭を撫で「嵌めおった」と喚き散らし、皆腹立て嘉兵衛を散々踏みのめす。嘉兵衛はここもしくじり、美濃野上の宿に掛かり居る。元来京の者なので話も巧く、綱渡りの三番叟や、徳利から水を高く走らせる手妻などするので評判を取り、土地の分限土屋そう休の気に入り、木綿布子を与えられ酒の相手をし、旨い物を食う。嘉兵衛はお慰みにと前から用意して三方を三つ重ね茶碗に水を入れ、その上に上がり5、6尺の刀を抜き、居合いを見せる。そう休、家内の者、客衆皆が褒めるが、嘉兵衛は三方を踏み破りうつ伏せに落ち、そう休の頭を突き破り、自分も柱に小鬢先を打ち付ける。家内が驚き騒ぐ所へ出入りの座頭が来て懐中から気付けと間違えて目薬を出して飲ませ、人心地が付き口が涼やかになる。嘉兵衛は頭を剃り仕着せの布子を剥いで宿外れで追い払われ、裸で破れ辻堂に肘枕する。その辻堂は、そうこう院の弥陀堂だが化物が出て無住となり荒れ果てている。嘉兵衛が寒さに転た寝していると、夜半に丈6尺程の鬼の如き化物が出、嘉兵衛は一掴みに押伏せて生け捕る。在所の者が集まり「前代未聞の手柄」と嘉兵衛をこの寺の住職に据える。この謂われで後々まで裸そうこう院と申す。一度し損じても出世する時節が到来する事間違いなし。ただ悪心を持つべからずと言うことだ。(木村八重子)(2021.2)(参考)『大辞典』第3巻(平凡社、1936)に立項「黒本。二冊。鳥居清満画。明和六年刊。織留巻四「家主殿の鼻柱」の焼直し。」とある。『赤本黒本青本集』(『大東急記念文庫善本叢刊 近世篇4』大東急記念文庫、1976)に影印および解題(中村幸彦)。「鳥居清倍・清満と『一夜船』―浮世草子の受容について―」(山下琢己、「近世文芸」第43号、1985.11.20)。