英勇物語
- 黒本3冊(合1冊)、題簽欠。鳥居フミ子編『台湾大学所蔵・近世芸文集』第5巻(勉誠社、1986)所収本(青本3冊合1冊、題簽中下あり)と内容が一致するので本来の書名は『日本小説年表』(『近代日本文学大系』第25巻 国民図書、1929)未載の「新版/甲/信/武勇礠」(振り仮名:かう/しん/ぶゆうのといし)。『青本絵外題集』1(貴重本刊行会、1974.7)174頁にも「中」の題簽あり。題簽の意匠により安永3午年(1774)刊。『日本小説年表』「黒本」「出版年代未詳部」262頁に「英勇物語」とあるのは当館本によった記録と判る。(内容)(上)武者修行者信州の薬岩寺二郎八盛政は、身延山の風穴付近で、野村郷太夫に父将監を討たれ仇討を志すみすぼらしい少年山田小隼人を助け、郷里の布下(ぬのした)入道知十郎方に落着かせる。小隼人は剣術に励み、布下の娘八重梅が彼を見初める。盛政は小隼人に本望遂げさせるため、布下へ書置きして二人で出立つ。(中)二人は伊勢に赴き、化物が出る旅籠庄八の離れに逗留。天井から出た大腕を切るが、大狸の懇願によりその腕を返すと、礼に金創の薬方を得る。野村一伝という兵法の師が、庄八妹おさのを妾に所望。盛政はおさのに探索を頼み、野村一伝が父将監の仇と判明。小隼人が本望遂げる。(下)盛政、小隼人、庄八、おさのの4人は信州布下に帰る。知十は小隼人に娘八重梅を娶せ、庄八に布下を名乗らせて武士に取立て、盛政、庄八、小隼人に、自分に替わって礠城の後詰に出陣の主君義清に就いて働けと頼む。礠(といし)城の戦は武田が敗れ、山本勘助の謀で立直り、村上方の園部、塚本初め悉く討死。大将村上義清が討死と見える所に盛政と小隼人が駆けつけ防ぎ立退く。盛政は帰陣し、討死と負傷者を点検、狸の膏薬で傷口癒え働き常の如く味方の幸いとなる。両国は和睦して山田小隼人は布下の養子、薬岩寺盛政と布下庄八は両執権となり武門繁盛し栄える。(木村八重子)