王子長者 3巻
- 題名は原表紙への打付書および後補書題簽による。黒本3冊(合1冊)、米山鼎峨作、鳥居清経画、題簽欠、柱題「王子上(中・下)」。東京都立中央図書館加賀文庫本に題簽全揃いの「万福長者玉 上(中・下)」(まんふくちやうしやのたま)(まんふくちやうじやのたま)あり、下冊分は『青本絵外題集』1(貴重本刊行会、1974.7)46頁にもあり。題簽の意匠により申年、伊勢治版。この申年は安永5年(1776)、分野は黄表紙とされるが、鳥居清経の画風から12年前の明和元年(1764)刊の可能性も高い。(内容)(上)王子の名高い長者は博学で日本の聖人と称され、内弟子の白介も学問に精出した。ある時長者の茶坊主玉りんが障子の破れから覗くと、白介の昼寝姿が大狐なので驚いて長者へ告げる。長者は「白介が起きたら何げなく此所へ寄こせ」と言う。玉りんは一緒にと誘ったが白介は断り、一人で長者の前に手を付き、昼寝で本性を現したこと、天竺での釈迦の霊鷲山の説法や孔子の学力をも承ったこと、長者が博識なので付き添い明徳を明らかにする道も知ったこと、本性を知られ人間の交わりは出来ないので、御暇乞いに術で、屋島の戦の体を御庭でお目に掛けましょうと言う。長者は慰留するが白介は白狐の姿となり「以後この御山を住処としてお家の吉凶を知らすべし。末世に至る迄立身出世の守り神となるべし」と言う。(中)(下)白狐の見せた屋島の戦いの名場面。鵯越。福原落。弓流し。敦盛最後。佐藤継信最後。八艘飛びと能登守最後。錣引き。忠度最後。扇の的。安徳帝入水。源氏の勝鬨目出度く凱陣し1匹の白狐残り「以後この王子の山に止まり、末世末代に至るまで国の守り神となるべし。一つの祠を建てて下さるべし」と掻き消すように失せ長者は名残を惜しむ。白介の不思議ゆえこの山に一つの祠を建て王子五社稲荷大明神と祝い今も目出度く繁昌する。という王子稲荷の縁起。(木村八重子)(2018.12)(紹介)『黄表紙總覧』前篇(棚橋正博著 『日本書誌学大系』48-1、青裳堂書店、1986.8)38頁に立項。『黄表紙解題』を引用。『黄表紙解題』(森銑三著、中央公論社、1972)に解説あり。「未紹介黒本青本」97(木村八重子、「日本古書通信」1069号、2018.8)に紹介。