鬼の四季あそび 2巻
- 文学史で言う「赤本」ではなく、後人によりまとめられた江戸後期小本「赤本/昔ばなし」8冊の内の1冊。(ただし「源平盛衰記」(寄別3-6-1-1)巻末に画作者の歌「赤本のほんにめでたし/\と又板行もあら玉の春」があるので、当時この種の作品も「赤本」と称したことが判る。)表紙は素朴ながら木版多色摺で、雪の積もった鉢植えの木に「永寿」と篆書で版元を表す扇を掲げる女性と右上の天から雪を降らせる鬼を描く。柱題「鬼四」。赤本「鬼の四季あそび」を粉本として文化文政頃に再製した一円斎国丸作画の小本。(内容)80年も前に刊行された赤本『鬼の四季あそび』の各図を順序はそのまま、絵も少しだけ変えて構成している。大きな違いは、七夕の場面に屋号が共に「大和屋」であった坂東三津五郎と岩井半四郎を引き合いに出し、『心中宵庚申』『嫗山姥』や河東節「乱髪夜編笠」の詞章は省いて清元「其噂桜色時」の詞章を入れた点であろう。赤本『鬼の四季あそび』と比較しながら見ると一層面白い。1丁表=雷どもが団扇で煽って蔵から雲を出し、臼で搗くなどして笊に入れる。1丁裏2丁表=千里の鞴(ふいご=金属の精錬等に用いる火起こし用の送風器)を仕掛け、団扇、吹き竹など道具を集めて世界へ風を吹かせ、下界の様子を見る鬼ども。2丁裏3丁表=雨を降らせようと世界一杯の如雨露を仕掛け、水を運び入れて雨を降らせる。「底抜けに降ると下界の人や見る汲み込む如雨露の夕立の雨」3丁裏4丁表=7月7日の夜、牽牛が織姫の許に訪れる。2人は無類の美人で、歌舞伎俳優の坂東(三津五郎、3世)と岩井(半四郎、5世)に似ているというので数多の星が「大和屋」に「大和屋」と褒める。(悪戯で顔に墨が塗ってあり判然としないが、それぞれその役者の似顔で描かれているかもしれない)4丁裏5丁表=夕立にしようと雷は用意の雲に乗り、数多の太鼓を叩く。女房の稲妻は鏡を取って空を光らせ、雲の上を駆け回る。5丁裏6丁表=雨を休んだら下界が干魃になり、霰(米菓のあられに掛ける)混じりの雨を降らせる。霰を刻む鬼2匹、霰を煎る母鬼、ねだる子鬼2匹。6丁裏7丁表=暇な八九月に霙(みぞれ)を仕込み笊に入れて棚へ仕舞う。7丁裏8丁表=雲の上で月見の酒宴。(「星の降る夜はひとしほゆかし」は、富本節「身替りお俊」の詞章「雨の降る夜はひとしほゆかし」の言い換え。文政8年(1825)3月中村座初演「其噂桜色時」で清元節にする。本作はそれ以降の成立であろう)8丁裏9丁表=鑿、鉋、鍬で雪の山を壊して削り、畚で運び雪を降らせる鬼たち。9丁裏10丁表=ひねになった雨を濾して雪に再製し、混ぜて無駄なく降らせるための作業。10丁裏=雪を降らせる2匹の鬼。狂歌「降積る世界の雪をかきいれていざしろかねの山となさばや」とある。(木村八重子)(2016.2)(紹介)加藤康子編著『幕末・明治 豆本集成』(国書刊行会、2004年刊)に、書誌、影印、翻刻、解説あり。「江戸絵本とジャポニズム」(国際子ども図書館)にて電子公開。